中高生のための科学と国際課題研究の世界大会「Global Link Singapore 2017」開催

北海道から九州まで日本全国から集まった中高生約100名が、7月22日の早朝、シンガポールの地に降り立った。Global Link Singapore(GLS)の大会に参加する生徒たちだ。

GLSは、アジアを中心として、世界各国の中高生が一堂に会し、科学や国際課題に関する考えや研究成果を英語で発表し合う国際大会。GLSでは、プレゼンやパネルディスカッションを通じて、国境を越えて、中高生や研究者が交流を行う。

期待と緊張の面持ちでチャンギ国際空港に到着した生徒たちがまず向かったのは、「マーライオンパーク」。シンガポールの象徴とも言えるマーライオンを前にして、翌日からいよいよ始まるGLSに向けての意欲を高めている様子だった。

開催地は国際都市「シンガポール」

シンガポールといえば、多くの人がマーライオンを思い浮かべるが、マーライオンの誕生秘話までは、意外と知られていない。現地で長年暮らしている人に聞いてみると、マーライオンは、実は、観光都市としての発展のために1972年に作られたものなのだそうだ。シンガポールという国名の由来は、その昔、この地の建国のために訪れた王様が、この地には生息しないはずのライオンを見たことから「シンガ・ポーラ(ライオンの国)」という名前がついたと言われている。そして、シンガポール建国の際に移民してきた人たちは「sea gipsy(シージプシー)」と呼ばれる漁師だったので、自分たちのルーツを忘れないために、ライオンに魚の体を与えたそうだ。

ライオンと魚を融合させるアイディアもすごいが、驚くべきは、シンガポールという国が、自国の未来を見据え、1970年代にはすでに「観光都市」となるための政策を打っていたということだ。そして、その姿勢は今なお続いている。

その象徴とも言えるのが、チャンギ第5ターミナル「Jewel(ジュエル)」の建設だ。2018年末へのオープンに向け、着々とコンストラクションの続くチャンギ国際空港。現在では、ハブ空港として、90以上の航空会社が利用する空港となり、アジア近隣国の空港に比べても都内へのアクセスが良いことから、日帰り海外出張も増えており、多国間のビジネスミーティングのハブとしても機能をしている。

そんなチャンギ国際空港の新しいターミナルのコンセプトは、「自然・娯楽・旅」を融合させることで、そのアイディアの多くは、2015年にオープンした「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」から得ているという話もある。入り口となる空港と、シンガポールの新しいアイコンとして知名度を上げている「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」とを同じコンセプトで結ぶことで、マーライオンに次ぐシンガポールの新しいイメージを生み出していこうとしている。シンガポールの止まることのない成長は、シンガポールの随所に感じられ、数年で変わっていく街並みは、観光客に「またシンガポールに来たい」と思わせる戦略でもあるのだろう。

さて、マーライオンパークを離れた生徒たちは、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイと向かった。ガーデンズ・バイ・ザ・ベイは、これまでの「自然(ガーデン)のある都市」というシンガポールのイメージをさらに発展させ、「自然の中にある都市」というコンセプトのもと、国家一大プロジェクトとして開始した計画の一つである。ガーデンズ・バイ・ザ・ベイのアイコンともなるスーパーツリーや、巨大ドーム型植物園は、人工的な建造物であるにもかかわらず、見事に自然と融合・調和しており、訪れた人を巨大な森の中にいる感覚にさせる工夫がなされていた。人工ツリーは、実際の木と同じ機能性を持っており、地面から水分と養分を吸い上げているだけでなく、木の上にはソーラーパネルが設置されており、太陽の光をエネルギーに変える光合成のような役割まで果たしているそうだ。

到着から数時間かけてシンガポールを巡った生徒たちは、シンガポールという街に圧倒されながら、休む間もなく、午後にはGLSの舞台となるNational University of Singapore(NUS)へと向かった。

いよいよGLS 2017が開催!

National University of Singapore(NUS)は、アメリカとイギリスの大学を除けば、ランキングが最上位の大学で、世界全体のランキングでも2016年は26位、2017年には24位にランクインするなど、ますます注目を集めている。そのNUSというアジア最高の教育機関を舞台に開催されるGLSには、アジア地域を中心として7つの国と地域(日本、シンガポール、タイ、フィリピン、ミャンマー、ベトナム、インドネシア)から46校、約200名の中高生が集った。

翌日の本番に向けたリハーサルでは、一気に緊張感が高まったが、無事にリハーサルも終わり、交流会のセッションへと向かうと、先ほどまでの緊張の糸は解け、アジアの学生たちが、ウェルカムな雰囲気で日本の生徒たちを迎え入れてくれた。

各国の学生たちが大きな食卓を囲っている風景からは、アジアの次世代が感じられた。お互いの第二外国語である「英語」を使って、自分の国や地域の話をしていた。日本文化について積極的に知りたがるアジアの学生が非常に多く、自分たちが日本の国外でこれほど注目される存在だという気づきは日本の学生にとっても大きな経験となったようだ。

その後、NUSの大学生による交流セッションではゲームが用意されていたが、ゲームに勝つために、他国の学生たちが発するエネルギーに、日本の学生たちはやや気おされていた様子だった。このような一幕も、日本人の学生にとっては、自分たちの課題を認識する機会になっていたようだ。最初は少し距離を置いて見ているだけだった日本人学生たちも、周りのアジアの学生たちの姿に触発されて、一歩前に出るきっかけをつかんでいった。

いよいよGLS大会の本番。大会は大きく分けて、「オーラルセッション」と「ポスターセッション」という2つのセッションに分かれている。また、各セッションの中に「グローバルイシュー部門」と「サイエンス部門」という2つのカテゴリーがある。

オーラルセッションでは、準備してきたプレゼンテーションの発表の後、発表者とオーディエンス、審査員との質疑応答がある。プレゼンの後、一息つく間もなく鋭い質問が会場から投げかけられた。

特に興味深かったのは、「この研究は将来的にどのように社会や世界に役に立つものとなるのか?」「なぜその研究分野やアイディアに着目したのか?」といった、研究の内容を問うというより、その研究の将来性や、着眼点を問う質問があがっていたことだ。

日本人のプレゼンテーションは非常にまとまりがあり、制限時間内に伝えるべき要点がよく整理され、分かりやすく解説がされているという素晴らしさがあった。一方で、質疑応答になると想定外の質問に対応できず、チームで誰が答えるべきか戸惑ってしまうシーンが見られた。この、不測の事態を切り抜けていく力を鍛えることは、日本人学生たちの今後の課題と言っても良いかもしれない。国際舞台に実際に立ったからこそ見えてきたリアルな課題だ。

それとは逆に、アジアの学生の発表は、伝え方がストレートであったりスライドがまとまっていなかったりなど、プレゼンのパフォーマンスといった観点では成熟しきってはいないが、自分の言葉でその場の雰囲気に合わせた発表がされており、何よりも質疑応答になるとさらに力を発揮し、会場にインパクトを残すものがあった。

今年の受賞者の研究発表の内容は?

オーラルセッションのサイエンス部門でベストプレゼンテーション賞を受賞したフィリピンのBansud National High School-Mimaropa Regional Scienceの発表者は、一般的にはゴミとして捨てられてしまうバナナの皮から、小麦粉のような粉末を作り出すことで、食糧不足の問題を解決しようというものだった。それだけではない。小麦粉アレルギーでパンなどが食べられないような人を助けるというユニークな研究発表でもあったのだ。

審査員から「なぜその研究を始めたのか? どこからアイディアを得たのか?」という質問が出た。その問いに対して、彼は「私は以前、ポタシアム不足によって起こる持病を抱えており、その治療方法はバナナを食べることだったので毎日バナナを食べていた。食べ終わるたびにゴミ箱に捨てていたバナナの皮をみて、これはゴミ以外のものとして役立てられないのか、また、フィリピンではバナナの生産も消費も多いので、毎日ゴミとなって捨てられる大量の皮を、どうにか役に立てられないかと思いこの研究を始めた」と返答していた。

また、オーラルセッションのグローバルイシュー部門でベストプレゼンテーション賞を受賞したのは秋田県立秋田南高校の学生だった。日本の食教育を世界に広めることで、世界の肥満問題の解決ができないかと考え、研究成果を発表した。審査員からは、世界の肥満問題の解決を考えた際に、アメリカという特定の国でありながら、世界的に影響力のある国にフォーカスし、日本とアメリカの文化の違いについてリサーチを行った上で、どのように日本の強みである食育という教育を輸出できるかということに着眼したことが評価されていた。

GLSは、アジア地域を中心とした各国の学生たちが、それぞれが独自の関心に基づいて行っている研究の成果を競い合う場だ。国籍にかかわらずシンガポールというハブシティに集まった彼らは、互いにライバルであると同時に、これからの時代を担う同志でもある。日本人学生にとっても、他国の学生にとっても、世界で戦っていくということ、あるいは国境を越えた協力や協働を、肌身で感じられる絶好の機会にもなったはずだ。

このような経験を積んだ若者がどんどん増えていくことは、少なからず世界貢献につながっていくのではないだろうか。彼らの今後の活躍に期待したい。