米国で開催されたリジェネロン国際学生科学技術フェアにて日本代表の高校生の研究4研究が計6賞受賞
高校生のための科学研究の世界大会「リジェネロン国際学生科学技術フェア(Regeneron ISEF)2023」が5月14日から19日(米国時間)に、米国テキサス州ダラスで開催されました。今年は感染症が落ち着いたことにより、日本代表としては4年ぶりの現地参加となりました。この大会は、1950年から毎年開催されている権威ある科学研究コンテストで、今年は64の国と地域から1638人の高校生が参加し、自分たちの研究をポスター形式(一部のファイナリストはオンラインにてスライド形式)で披露し合いました。賞金・奨学金などの総額は約900万ドル(10億円以上)になります。今年は、アリが滑らかで垂直な壁を登るメカニズムを解明した研究や、バイオリンのハーモニクス奏法の数理的モデルに関する研究など、日本から11チーム18名が参加し、4研究が部門優秀賞2等など計6賞を受賞しました。
大会の概要
ISEFは、世界約400か所で開催される提携コンテストに約700万人の高校生が参加するところから始まります。各国のコンテストで選出されたファイナリストが、毎年5月米国で開催されるISEFに派遣されます。日本では、ISEFの提携コンテストである「高校生・高専生科学技術チャレンジ(JSEC)」(朝日新聞社・テレビ朝日主催)と「日本学生科学賞」(読売新聞社主催)で特に優れた賞を受賞した11研究が日本代表として派遣されており、ISEFのOB/OGが中心となって組織するNPO法人日本サイエンスサービス(NSS)の主催する研修会など、約半年間に渡る英語プレゼンテーション等の準備を経て、出場しています。
ISEFでは、物理、化学、生物、地学、数学といった基礎科学分野のほか、機械工学や環境工学といった工学系分野、機械学習やシステムソフトウェア等の情報系分野、医療分野、社会科学など多岐にわたる21のカテゴリーに分かれて審査されます。審査は、各分野の博士号を有した経験豊富な研究者によって行われ、上位25%に「優秀賞(1〜4等)」が授与されるほか、45以上の企業・団体から奨学金やインターンシップを含む「特別賞」が用意されています。
今年は、アリが滑らかで垂直な壁(垂直にたてたガラス)をのぼるメカニズムを明らかにした大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎のブランデル葉奈さんの研究が、日本代表としては前身の物理学部門を含め、物理学・天文学部門で史上初の優秀賞2等に輝くなど、下記4研究が計6つの賞を受賞しました。また21の各部門での1等受賞者の中から特に優秀と認められた12プロジェクトには Top Awards が贈られました。全体トップの賞となるジョージ・ヤンコプロス賞にはアメリカ代表Kaitlyn Wangさんが選ばれ、賞金75,000ドルが贈られました。
今年の大会の詳細は、ISEF情報サイト(https://isef.jp/)をご覧ください。
日本代表の受賞者情報
発表者:ブランデル葉奈
研究タイトル(和文):アリの秘密 〜アリはどうやって滑らかな壁を登っている?〜
研究タイトル(英文):How Ants Climb Smooth, Vertical and Overhanging Walls
学校名:大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎
受賞内容:物理学・天文学部門2等 / 科学による社会貢献賞2等
研究概要:
アリは、ガラスなどの滑らかな壁が垂直であっても、張り出していても登ることができます。しかし、なぜ滑らかな垂直な壁を登れるのかは良く分かっていませんでした。ブランデルさんは、この身近な疑問に端を発し、アリの足にある吸盤機構と粘着物質を用いて登っている、という仕組みを解き明かしました。この研究は、非常に身近な疑問に対し、仮説を立て、実験をし、その結果を理論立てて考察するという物理的考え方に基づいて緻密に検証されたものであり、アリの足の機能性を解き明かした非常に優れた研究といえます。また、今回解き明かしたアリの足の機能はバイオミメティクス(生物模倣技術)としての応用も期待されます。
発表者:田中翔大
研究タイトル(和文):バイオリンのハーモニクス奏法における倍音の持続現象に関する数理的研究
研究タイトル(英文):A Mathematical Study About the Sustaining Phenomenon of Overtone in Flageolet Harmonics on Bowed String Instruments
学校名:市立札幌開成中等教育学校
受賞内容:物理学・天文学部門3等 / アメリカ音響学会1等
研究概要:
バイオリンの超絶技巧の一つであるハーモニクス奏法では、途中で弦から指を離しても音が持続します。この現象に対して、田中さんは一次元波動方程式に弓と指の効果を表す項を追加した数理モデルを考案し、ハーモニクスの音が持続する現象の発生機構を調べました。その結果、この数理モデルで音の持続時間のパラメータ依存性の経験則を定性的に再現できることがわかり、音の持続時間のパラメータ依存性はべき乗則に従うことを明らかにしました。
発表者:箕浦 祐璃、光吉 音葉
研究タイトル(和文):赤い紅の「見える緑」「見えない緑」「光る緑」 〜墨を用いて紅の緑色光沢を生み出す伝統的な手法の解析〜
研究タイトル(英文):Analyzing a 400-Year-Old Mystery, the Makeup Method of Producing Green With Charcoal and Beni
学校名:文京学院大学女子高等学校
受賞内容:材料科学部門4等
研究概要:
文京学院大学女子高等学校の箕浦さんと光吉さんは、江戸時代に使われた伝統的な化粧品「小町紅」に着目した研究を行いました。小町紅は非常に純度の高い紅から得られる高級化粧品であり、唇に塗ると紅の上に緑色光沢が現れる不思議な紅です。昔、庶民の間では高級化粧品である小町紅の代わりに墨の上に紅を塗ることで緑色光沢を再現するということが流行りました。二人の研究では、小町紅とその代用品として使われた墨と紅などを様々な条件下で比較することで小町紅特有の緑色光沢の仕組みの謎に迫っています。
発表者:安藤優花、石垣美月、相原瑛莉星
研究タイトル(和文):空気の微細な気泡と海水の鉄電解を用いたアンモニア製造法
研究タイトル(英文):Novel Ammonia Production Method Using Both Microbubbles and Iron Electrodes for Seawater Electrolysis
学校名:静岡理工科大学静岡北高等学校
受賞内容:上海青少年科学教育社賞
研究概要:
アンモニアは、再生可能エネルギーの貯蔵媒体として注目されています。前年度に微細な気泡を用いたアンモニア製造法を開発したものの、生成量の少なさが課題として残りました。そこで静岡理工科大学静岡北高等学校の安藤さん、石垣さん、相原さんは、前年度の研究に電気分解を組み込み、生成効率を上げ、ハーバー・ボッシュ法と同等な製造単価でのアンモニア製造を可能にしました。
日本代表の情報
発表者:安藤 優花、石垣 美月、相原 瑛莉星
研究タイトル(和文):空気の微細な気泡と海水の鉄電解を用いたアンモニア製造法
研究タイトル(英文):Novel Ammonia Production Method Using Both Microbubbles and Iron Electrodes for Seawater Electrolysis
学校名:静岡理工科大学静岡北高等学校
発表者:大森 春音、浦川 大輝
研究タイトル(和文):フトヘナタリの「表現型可塑性」に関する研究 〜生息環境が違うとどうしてこんなにサイズが違うの?〜
研究タイトル(英文):Growth of Tidal Snail Cerithidea moerchii Depends on Submergence Rate and Height of Reed Stem in Brackish Mud Flats
学校名:長崎県立長崎北陽台高等学校
発表者:小笠原 優海
研究タイトル(和文):心地良い「音楽」を「数学」で奏でる
研究タイトル(英文):Performing Pleasant Music With Mathematics
学校名:大妻多摩高等学校
発表者:河野 百羽
研究タイトル(和文):光により誘導される根の緑化の発見
研究タイトル(英文):Discovery of Light-Induced Acquisition of Photosynthetic Capacity in Plant Roots and the Examination of Its Evolutionary Advantages
学校名:東京大学教育学部附属中等教育学校
発表者:坂手 遥、横山 麗乃、渉 結名
研究タイトル(和文):植物乳液の防虫効果と利用法
研究タイトル(英文):Wouldn’t Hurt a Fly: The Efficacy of Plant Latex as an Insect Repellent
学校名:島根県立浜田高等学校
発表者:高田 悠希
研究タイトル(和文):スマート盲導杖「みちしる兵衛」 〜AI搭載白杖による視覚障害者歩行支援〜
研究タイトル(英文):Michishirube: AI Assist Cane for Visually Impaired
学校名:群馬県立高崎高等学校
発表者:田中 翔大
研究タイトル(和文):バイオリンのハーモニクス奏法における倍音の持続現象に関する数理的研究
研究タイトル(英文):A Mathematical Study About the Sustaining Phenomenon of Overtone in Flageolet Harmonics on Bowed String Instruments
学校名:市立札幌開成中等教育学校
発表者:鶴丸 倫琉、柴崎 湧人
研究タイトル(和文):忍具「些音聞金」の解明と応用 ~忍具の謎を解き明かし、現代に役立てる~
研究タイトル(英文):Ninja Had the Noise Canceling Technology: Mechanisms and Application of Saoto-Kikigane
学校名:山口県立徳山高等学校
発表者:ブランデル 葉奈
研究タイトル(和文):アリの秘密 〜アリはどうやって滑らかな壁を登っている?〜
研究タイトル(英文):How Ants Climb Smooth, Vertical and Overhanging Walls
学校名:大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎
発表者:水谷 紗更
研究タイトル(和文):炎光光度法を用いたエアロゾル粒子の濃度測定と可視化手法の開発
研究タイトル(英文):Measuring and Visualizing the Concentration of Aerosol Particles Using Flame Photometry
学校名:東京都立小石川中等教育学校
発表者:箕浦 祐璃、光吉 音葉
研究タイトル(和文):赤い紅の「見える緑」「見えない緑」「光る緑」 〜墨を用いて紅の緑色光沢を生み出す伝統的な手法の解析〜
研究タイトル(英文):Analyzing a 400-Year-Old Mystery, the Makeup Method of Producing Green With Charcoal and Beni
学校名:文京学院大学女子高等学校
<注意>
研究タイトル(和文)は、日本国内の提携フェアで発表した際のものです。
学校名は、日本国内の提携フェアに出場した際(2022年12月)の所属です。
ISEFの最高賞を受賞した研究
21の各部門での1等受賞者の中から特に優秀と認められた12プロジェクトには Top Awards が贈られました。その中からトップ3にあたる賞を紹介します。(タイトルの邦訳は、原題や研究内容をもとにNSSが作成したものです)
ジョージ・ヤンコプロス賞(最高賞)
George D. Yancopoulos Innovator Award 賞金75,000ドル
Kaitlyn Wang(アメリカ)
タイトル: Discovery of the Smallest Ever Ultra-Short-Period Planet Using Novel Phase Folding Detection System Parallelized on a Cheap GPU(邦訳: 安価なGPUで並列化された新しい位相折りたたみ検出システムを用いた過去最小の超短周期惑星の発見)
研究概要:
超短周期惑星(USP)の形成と存在の理解にはまだギャップがあります。既存の通過検出方法では、USPを検出することができず、サンプル不足が調査を妨げていました。 この問題を解決するために、新しい検出システム「ExoScout」を設計しました。ExoScoutは、位相折りたたみアルゴリズムと畳み込みニューラル ネットワーク (CNN) 検出器で構成され、弱い信号を検出できます。ExoScoutを使って、新たなUSPの検出も成功し、TESS、James Webb、Earth 2.0 ミッションの大規模データセットから新たな発見が可能になりました。
リジェネロン青年科学者賞(2件)
Regeneron Young Scientist Award 賞金50,000ドル
Teepakorn Keawumdee、Pannathorn Siri、Poon Trakultangmun(タイ)
タイトル:Optimization of Green Lacewing (Mallada basalis) Survivability From Hatching and Foraging Behavior (邦訳:ヒメリュウキュウクサカゲロウにおける孵化と採餌行動の解析による生存率の最適化)
研究概要:
世界的な害虫として農作物を脅かすコナカイガラムシが問題になっています。その対策としてヒメリュウキュウクサカゲロウという昆虫を放つことによる生物学的防除が注目されていますが、自然界での生存率が低いことが欠点でした。本研究では、卵の孵化率に影響する環境要因や共食いの原因となる採餌環境を検討しました。その結果、生存率を5倍に高めることに成功し、この方法は殺虫剤よりも効果的で持続可能な害虫駆除法としての活用が期待されます。
Saathvik R. Kannan(アメリカ)
タイトル:BIO-PLEX: An Innovative Biocomputational Approach to Decode the Secrets of the 2022 Mpox Resurgence(邦訳:2022年サル痘(Mpox)再流行の原因を解読する革新的なバイオコンピューティングアプローチ”BIO-PLEX”の開発)
研究概要:
サル痘ではDNA複製酵素が感染力の強さに極めて大きな影響を与えます。しかし当初はこの酵素の立体構造は知られていませんでした。そこで深層学習とホモロジーモデリングによるタンパク質の構造予測を組み合わせることで短時間のうちに立体構造を推定できるBIO-PLEXという手法を開発しました。酵素の立体構造と遺伝子変異との関係を解析しサル痘流行の謎に迫っています。
NPO法人日本サイエンスサービス(NSS)とは
科学自由研究コンテスト受賞やISEF出場経験のある大学生・大学院生が中心になって活動するNPO法人です。研究の醍醐味を誰よりも知っている自由研究の先輩たち(大学生や大学院生)が、後輩たち(小学生~高校生)の自由研究の応援と、科学研究ファンを広げる活動をしています。そのさらに先輩にあたる社会人スタッフは後方支援を行いながら、若き研究者の育成に力を入れています。「研究大好き集団」、それが日本サイエンスサービスです。
関連サイト
ISEF情報サイト
NPO法人日本サイエンスサービス(NSS)
日本学生科学賞
https://event.yomiuri.co.jp/jssa/
高校生・高専生科学技術チャレンジ(JSEC)
https://manabu.asahi.com/jsec/
SOCIETY FOR SCIENCE(ISEF主催者)
すべての受賞者一覧
本プレスリリース(PR TIMES)
科学研究の国際大会で高校生が部門優秀賞など6賞受賞|特定非営利活動法人日本サイエンスサービスのプレスリリース (prtimes.jp)
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